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2009.07.04 (土)

 「 『すべての子どもに教育を』の信念で建てられた日本初の公立小学校 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年7月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 795

明治新政府は誕生まもない時期から公立学校を設立し、国民教育に力を入れたが、日本で初めての公立小学校は、新潟県小千谷市で開校した。振徳館と通称された公立小千谷校は、山本徳右衛門という地元の豪商が私財を投げ打ってつくった。私事ながら、小千谷は私の母の生まれ故郷であり、私もひと月あまり住んだことがある。

小千谷市は山々に囲まれた自然の美しい静かな町である。この町に日本初の公立小学校が誕生した物語を、立石優氏が『学校物語』(恒文社)で描いている。昔の人は本当に立派だった、そんな感想を自然に抱いてしまう同書の内容をざっと紹介する。

戊辰戦争で官軍と戦った諸藩は、奥羽越列藩同盟をつくったものの、仙台、米沢の両藩は脱落し、徹底抗戦したのは長岡と会津の二藩だけだった。長岡では激しい戦いでお城が焼かれ、城下町の85%が焼失した。

そうしたなか、父が討ち死に、母ともはぐれた多くの長岡藩士の子どもたちは隣接する小千谷へ逃れた。小千谷は髙田藩領だったが、享保9(1724)年に天領となっていた。また、官軍に恭順の意を示したために、かろうじて戦火を避け、一応の平安を保っていた。

長岡藩士の子どもたちは小千谷に逃れたものの、官軍による“賊軍”の探索が厳しく、身を休めるわずかな空間さえ確保するのは難しかった。10歳前後の幼い者たちがそれぞれ小さな集団を形成して助け合った。山々の大木の陰や寺院の軒先で野宿をした。十分な食糧もない。そんな子どもたちの姿に心を痛めたのが徳右衛門だった。

徳右衛門は、炊き出しを始めた。新政府に咎められたら彼自身の運命も危ない。だが、彼は早逝した一人息子の面影を幼い藩士の子らに重ね合わせながら、官軍に懇願する。未来ある子どもたちのために学校をつくらせてほしいと。知事、四条隆平に建白書も書いた。全費用は自分が負担し、新政府への多額の寄付も誓約した。知事が交代し、夏が過ぎ、秋風が吹いても、色よい返事はない。徳右衛門は二通目の建白書を携えて、今度は長岡に向かった。持参した書き付けには、学校名・振徳館小学校、教授・山田愛之助、教場・五智院となっている。

山田愛之助は元長岡藩の藩校・崇徳館の最高位の教授、五智院は古来10万石の格式の真言宗の古刹である。

立石氏が五智院にまつわる逸話を次のように紹介しているのだが、五智院と私とのあいだにかすかなご縁がある。

「明治政府から德川家ゆかりの品を提出するように申し渡された五智院の(住職)尊澄は朱印状などは差し出したが、葵の紋入りの朱印箱と将軍たちの位牌はついに隠し通してしまった」

新政府に渡せば粗末に扱われるやもしれない。そこで尊澄は隠して守った。そのありかは誰にも知らされないまま、100年が過ぎた。昭和43(1968)年、本堂裏側の屋根が抜け落ち、護摩堂の壁に雨漏りの大きなしみがついた。住職の髙野一能師が改修のため壁土を剥がすと、「古色蒼然たる将軍たちの位牌が整然と」並んでいた。

容易に新政府になびかず、守るべきものを守り通した尊澄師だからこそ、“賊軍”の子どもたちをはじめ、当時のすべての階層の子どもたちのために、教育の場所を提供したといえる。

官軍は、“賊軍”の子弟に教育をという申し出に当初は否定的だった。だが、9月22日の会津藩の降伏で戊辰戦争が終結したのを機に、徳右衛門の願いを聞き入れた。こうして明治元(1868)年10月1日、許可が下り、翌年3月、生徒の入学をもって開校となった。京都、東京に先駆けての公立学校の開設だ。一人の民間人の熱い心の結晶である。

ちなみに護摩堂の壁から歴代将軍の位牌を発見した五智院の髙野一能住職は、私の高校時代の恩師である。

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 「 『すべての子どもに教育を』の信念で建てられた日本初の公立小学校 」

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